中外日報 1996年(平成8年)2月10日  2面見開き両面全紙

駒沢学園 にジャンボ涅槃図

創立70周年を記念して完成


涅槃式典で初公開
越前手漉き5b四方の一枚和紙

 世界最大といわれる約五b四方の手漉き和紙に描かれた”世界一”のジャンボ涅槃図が完成し、東京・稲城市浜の駒沢学園(伊藤文雄理事長)に納められた。
人間国宝となった紙漉き名人の故・岩野平三郎氏が一九二五年に、早稲田大学図書館 の依頼で日本画の大家、横山大観・下村観山の壁画用画紙として漉きあげた越前和紙 六枚のうち、現存している1枚を使った歴史的な大作である。
生徒の豊かな感性と仏教的情操を養うための学園の新しいシンボルとして、二月十五日の涅槃会を前に、十四日の式典で生徒や関係者に初めて披露される。


駒沢学園記念講堂に掛けられた世界最大の「平成大涅槃図」
東 隆眞学長(右)と伊藤文雄理事長(左)の身長と比べると大きさがわかる

「平成大涅槃図」と命名

 駒沢学園は幼稚園・女子中学校・女子高等学校・女子短期大学・女子大学(東隆眞学長)を擁する仏教主義の女子総合学園で、平成九年(一九九七)に創立70周年を迎える。 
涅槃図の制作はその記念事業の一つとして、進められた。
「作るなら一枚和紙で日本一の涅槃図を」という東学長 の強い希望に応えて仲介の出版社が京都の森田和紙の紹介で見つけてきたのが、岩野製紙に幸運にも残されていた貴重な一枚。
 人間国宝・故岩野平三郎 氏の作品で、早稲田大学が「岡大紙」と名づけたこの和紙は、ドイツのグーテンベ ルグ博物館、読売新聞社、王子製紙などに保存されている。五b以上もある継ぎ目のな い和紙は、岩野氏の手がけたものが最初で最後とされ、現在でも漉けるところはないという。

 涅槃図は、仏画専門の作家として数々の復元画を手が けてきた京都在住の仏画絵師、藤野正観氏(45)が、京都・洛西・大原野の古刹、善峯寺(単立・西国第二十番札所)の薬湯場を借りて、約一年がかりで 描き上げた労作である。

 わが国で現存する最古の涅槃図と して知られる高野山金剛峯寺の「仏涅槃図」平安後期、 応徳三年の成立であることから、応徳涅槃図と呼ばれている=国宝)を元絵とし、多 くの動物が描かれた東福寺の 兆殿司作「涅槃図」も参考に した。
 画面中央に横たわる釈尊の像を取り巻いて、四方から沙 羅双樹が枝を伸ばし、上方に 塵耶夫人の姿が見える。

周りには仏弟子や諸菩薩、諸天、信者らがお釈迦さまの涅槃を悲しみ、たくさんの動物や鳥類、虫類にいたるまで嘆き悲しんでいる様子が描かれている。
その中には猫や鼠 もいる。藤野画伯の想像によ る南方の鳥や架空の鳥も集まっている。明るく静かで透明 感のある涅槃の情景である。

 表装は仲介の出版社の指名により兵庫県尼崎市の泣^ツヤ が担当した。

七十年も昔の和紙であるため、虫食いや汚れのある周囲は切除された。
紙皺を伸ばして洗い、裏打ちする作業は二カ月を要した。

最大の難関は、11`を超す重量にどうやって耐えられるようにするかである。
巻き上 げたり掛けたりする時、巻きぐせや折れ、小皺、剥離、反り、歪みがないよう工夫が凝らされた。

制作日数は約三方月。涅槃図の本紙の大きさは縦四・八 b×横四・六b「掛け紬の仕上がりサイズは縦六・四b、横五・二二b、表装の重さは、 約一〇〇`で完成した。
 駒沢学園では毎年二月十五日、記念講堂で全学園をあげ て涅槃会を執り行ない、お釈迦さまの教えや生死の意味に ついて考え自覚を深める機縁としている。
「平成大涅槃図」は、その為の視覚教材であり、学園の新しい家宝として永く後世に伝えられていく。