中外日報 2000年(平成12年)5月20日 中外アート 不定期連載エッセー&コラムより 1/3紙面

こころのお隣さん
私のインターネット事情
仏画工房 楽詩舎 代表絵師 藤野正観



ホームページを作る筆者


もう四年も前になる。地味な仕事のわりには、新しいもの好きの私は、以前より、パソコンを絵筆変わりに、仏画の構想を練っていたのだが、世間に少しずつ浸透しつつあるインターネットなるものを経験したくなった。
パソコン店に行くと、意外と安価で接続できるらしい、私の貧しい財布の中身でも用が足りた。
さっそく、買って帰ったモデムを接続し、店で契約した格安のプロバイダーとの接続を試みたが、やはりダメ。うまく接続できない。
プロバイダーの若い社員に、電話で汗をかきながら質問。冷たく事務的に答える理数系の若い社員の口調に傷つきながら、何度もトライし、やっと接続。

その頃のインターネットといえば、理数系の学生たちが我がもの顔に君臨していた。私など、おじさんの初心者は、部外者扱いをされよくバカにされたものだ。
もっとも、訳の分からない自分が卑屈になっていたのかもしれないが…。

そんな私が、まもなく自分のホームページ(HP)を開設するのだから、我ながらたいしたものだ。
世間に、仏画のすばらしさや現代もなお、昔ながらに仏画が制作され続けている事実を私の想いと共に伝えたかった。
仕事が終わった深夜、とりつかれた私は、HP作りに燃えた――。

一九九七年三月十日、めでたく仏画工房 楽詩舎 のHPが完成、無数の修正や追加ページで今では、とりとめのない、独り善がりのやたら大きいサイトになってしまっている。仕事のことだけでなく、自分の人生や日頃気になっている社会問題など、生身の自分をさらけ出している。
現在、三万三千人の老若男女が、私の手作りサイトに来てくれている。雑誌などにも紹介されたりしたが、こんな地味な内容のHPの来訪数としては、異例らしい。
そんなことで、全国いや世界中の仏教ファンとご近所付き合いすることが多くなった。
今、インターネットは、人と人とのコミュニケーションの有り方を根底から変えようとしている。地球の裏側が、お隣さんなのだ。
今や、私の世代でもほとんどの人がパソコンを持っている。
仕事においても、私のHPを見て制作依頼して来る人も増えてきた。また、仏教に興味有る人との仏教談義に寝るのも忘れ、仏教書を読んだりと、忙しくも楽しい毎日を過ごしている。
最近、私の所属する仏教クラブのHPを作らせていただき、運営管理までさせていただいている。まだ、どんなサイトに進化するのか期待していただく段階なのだが、やはり仏教の精神で、すさんだ現代人の心を癒せるようなサイトを目指したいと思っている。
私は、それが可能なのを過去のインターネット経験で知っている。

宗教者は、このインターネットなる最高のこころ通信システムに無関心でいてはいけないと思う。
インターネットは、宗教者にとって無限の可能性を持っている。
インターネットでは、布教(情報発信)する側もされる側も、心のお隣さんなのである。
現代人の痩せた心には、身近で暖かいメッセージが何よりも必要なのだから――。

仏画工房 楽詩舎
藤野正観


      

ふじのしょうかん