中外日報 2000年(平成12年)9月20日 中外アート 不定期連載エッセー&コラムより 1/3紙面

仏画を描く
――基本編A下図の制作――
仏画工房 楽詩舎 代表絵師 藤野正観


古仏画の写真を用意


前回の「基本編@線描」では、写仏教本などの付録などですでに入手されているものとして書いたが、今回は、その下図そのものを、最も現代的な方法で作ってみたいと思う。もちろん、彩色する為の細密な下図にもなるわけだから、本画の制作においても最も重要な作業といえる。

下図のことを粉本ともいう。昔、紙に胡粉でおおまかに描いてから、墨で完成させたことからそう呼ぶのだそうだ。
密教の尊像画では、画僧が写した粉本を大切にする。粉本集として、代表的なものに「佛像図彙」があるが、今でも運が良ければ古本市などで手に入るかもしれない。
しかし、この手のものは、画僧といえども、所詮は絵に関しては素人、例外を除き、ほとんどの粉本において、線の表現がおおらかで、大胆である。つまり、細部が良く分からないことが多いのだ。
したがって、それらを資料としながら、自分で粉本を作成するのが、一番良い方法だといえる。

まず、用意しなければならないものとして、描きたい古仏画の写真。ここで注意しなければ成らないこととして、写真が彫像の場合、図像化するには、かなりの絵心を必要とする為、避けた方が懸命である。必ず、鮮明な図像の写真または本を用意する。それと、トレース用紙と0.3mmのシャープペンシル。マスキングテープがあればなお良い。写真や本を傷つけたくない場合は、近くのコンビニなどで淡い目にコピーする。この時、拡大コピーをしておくと当然のことながら大きな図ができるのだが、大き過ぎると写し取る作業が困難になる。細密に写し取った後、拡大コピーする方が楽のようである。シャープペンシルを0.3mmにしたのも出来る限り細密に写し取る為だ。

淡い目にコピーした白黒の図の上にトレース用紙を重ね、動かないようにマスキングテープで簡単に止める。右利きの人は、左上から順に丁寧に細部まで写す。なぜ、左上からかというと、単に手の汗などで、繊細な線が汚れるのを防ぐ為だ。この時、コピーの原稿を横に置き、トレース用紙には透けきらない部分を確かめながら作業をする。衣の文様などは、いいかげんに写さないで、定規などを使い、しっかりと描いておくと、この下図を原本に拡大コピーをした時にも正確な下図として通用するというわけだ。

ここで、衣などに施されている日本の伝統的な文様のことに触れてみたい。
私は、かつて染織図案を描いていた事もあって、古典文様の形がどうしても気になってしまう。

古典文様を勉強し描く

昨今に描かれた仏画には、代表的な割り付け文様や丸紋は何とか表現してあるが、現代文様と託けて中途半端な文様でごまかしてあるのを見うける。文様を創るのはいいのだが、どうも手抜きが多いような気がする。
先人たちが、これでもかこれでもかと創り続けた結果、良い文様だけが研ぎ澄まされ今に受け継がれているのだから、そう簡単には、後世に残る文様は創作できない。
古典の中には、素晴らしい文様が数多く存在する。
古典文様をしっかり勉強し、描くことによって、尊像がより荘厳され格調高くなるのだ。
仏の形は、粉本や彫像写真を、衣の文様は、染織関係の文様集などを側に置き、この作業をされることをお勧めする。
仏絵師  藤野正観






      

ふじのしょうかん